美食の国イタリアの庶民は意外にも量り売りの安いワインを飲んでいた
イタリアといえば美食の国というイメージがすっかり定着しました。
フランスに負けるものかと改良を続けたおかげで、海外でも通用するようなイタリア産ブランドワインも誕生しています。
とはいえブランドもののほとんどは輸出用で、一般のイタリア人の食生活にはあまり関係がありません。イタリア人が家庭でふだん飲むのは、いまでも安いテーブルワインです。しかも量り売りがほとんどです。
高いお金を出さなくても、安くておいしいお酒がいくらでもあるからとイタリア人は胸を張って言います。
高級ワインのような味が安酒で楽しめるとはイタリア人も考えていません。本音をいえば、毎日飲むものはある程度安くないとだれも買えないというだけです。
しかしさすがに美食の国。ノーブランドでも、ふだん飲むには十分な品質のお酒が安く手に入るのは事実です。
イタリア人の愛するノーブランドワインを試してみたければ、町角の量り売り店へ行ってみてください。この国の人たちが何百年もの間楽しんできた、地元の人だけが知る地産酒の味がわかります。
外国へ輸出されるようなブランドワインは、実はかなりの高級品です
日本でも知られるバローロのような銘柄酒は、イタリア国内で買っても1万円はします。ブランドのレベルを下げても、有名な会社の製品だとテーブルワインでも1本2000円程度は覚悟しなければいけません。
一般的な750ml入りのビンからはグラス約6杯注げます。カップルで分けるならともかく、家族で飲むなら夕食1回でボトルは空になるでしょう。飲み物のために、夕食ごとに2000円余計に払う家庭はさすがにほとんどありません。
イタリアの家庭では、海外へも輸出されるようなブランド製品を開けるのはお祝いのときくらいです。普段家で飲まれているのは、近所の小売店で買う量り売りがほとんどでしょう。
普段用には、面倒なことをいっさい考えずに飲める、経済的なお酒がたっぷり欲しいというのがイタリア人の考えです。こうした考え方はいまに始まったものではなく、はるか中世から何百年もの間ずっと変わっていません。
フィレンツェのように古い町並みが残っているところでは、量り売り口の跡が建物の壁にまだ残されています
町を歩きながらよく見ると、建物の1階の入り口付近に、何に使うのかよくわからない開口部が残っていることがあります。
▲これは中世のワイン売場の跡です。でもこの建物が昔、飲み屋や酒屋だったということではありません。
今はただの分譲マンションですが、中世には、こうしたお屋敷は裕福なひとつの家族がそっくり所有していました。使わない部屋は他人に間貸ししながら、建物の大部分は持ち主の家族がふつうの住居として使っていたといいます。
財力のある人たちは、郊外の農園にいくつもの所領やブドウ畑をもっているのが普通です。自分の畑で収穫されたブドウから自家製ワインをつくり、市内のお屋敷まで運ばせて家族でそれを飲んでいました。
畑が広ければ大量のお酒ができあがってきます。そこで家族の消費分だけは取り分け、自分の屋敷の間借り人や近所の人たちに、オーナーは自分の屋敷で自家製のお酒を売っていました。扉横に残るふしぎな穴は、その頃使われていたお酒の注ぎ口です。
今はこうした穴は使わないので、きれいに塞がれています。
▲こちらの穴はかなりよく保存されていました。上には「朝9時から午後2時まで、夕方は5時から8時までここでワイン販売」と刻まれた石版まで保存されています。昼食や夕食前に、近所の人たちがビンをもってここへ集まってきた様子が目に浮かぶようです。
しかしこれらが使われていたのははるか昔のこと。現在は酒類の販売には免許が必要なので、大家さんからあまったお酒を売ってもらうわけにはいきません。
今のイタリア人は、どこで家庭用ワインを買っているのでしょうか?
店を探しましょう!お手軽価格で買えるものが見つけられます
どこの町も同じだと思いますが、フィレンツェでも町のあちこちに量り売りワイン店があります。
▲店内にはお酒の入った10個ほどの大きなガラス容器が並んでいます。
システムは簡単で、容器に付けられている番号をお店の人に伝えるだけです。各容器からサーバーまでチューブが伸びていて、お店の人がハンドルをひねるとその場でビンに好みのお酒が注がれます。値段はビンに詰める量次第です。
750ml詰めてもらって300円くらいでした。味見もさせてもらいましたが、ふつうにおいしいと思います。
ビンも約70円で売っていますが、ほとんどのイタリア人のお客は自宅から空きビンを持参していました。家の中にある適当な空きビンをみんな持ってきているようです。
高級なワインを飲みながら、むずかしいコメントをだすのはイタリア人には似合いません。肩のこらないお酒を好きなだけ買って飲むスタイルが、いまも昔もこの国の人には合っているようです。
By 坂上