インドの噛みタバコ(パーン)を食べて飲み込んでしまったトホホな話
インドにはパーンと呼ばれる噛みタバコがあります。
煙で楽しむのではなく、「タバコの葉っぱを噛んで楽しむ」というものです。
自分はこれを知らず、到着早々タクシーの中で、食べ物と勘違いして口にし、激しい不味さに耐えながら頑張って飲み込んだという、文字通り苦い記憶があります。
そんな体験も交えつつ、インドの噛みタバコ文化を紹介します。
噛みタバコとはそもそも何か?
タバコの葉っぱを噛んでいるだけでは、さすがにそれほど美味しくありません。
インドの噛みタバコは「スパイスで味付けをする」というのが特徴です。
写真のように葉っぱを広げ、その上にタバコとスパイスを混ぜて包み、一緒に噛んで味わうわけです。そのスパイスの配合によって、甘みや辛味など、さまざまな味の違いを出すことができ、それが愛煙家にとって魅力となっています。
例えていうなら、野菜生活に緑、紫、赤、黄、などがあるようなものでしょう。
味のバリエーションがあるほど、人は飽きずにのめり込んでいくのだと思われます。
包んでいる葉っぱはキンマという胡椒の仲間の葉っぱで、一番よく使われるスパイスはクローブです。
噛みタバコを噛んで飲み込んだ感想
インドに着いた初日、空港から街までタクシーに乗りました。
写真はその運転手のおじさんです。
で、そのタクシーの車内にこの噛みタバコがあったのですが、自分は最初、食べ物だと思いました。
それで「Is this food?」と運転手のおじさんに聞いたら「Yes」と答え、食べるようにゼスチャーで勧めてきたので、「Thank you」と言って食べ始めました。
この写真のものです。
「苦くて甘い」という感想がネットではありましたが、自分が噛んだものはひたすら苦かったです。
多分、おじさんの好みなのだと思います。
あと、何か石のようなものが沢山混じっていました。
一応、噛んである程度柔らかくして飲み込むことができたので、何かの根っことかかも知れません。
一般に噛みタバコで使われるのはこれらしいですが、これよりもっと硬い何かでした。(何だったのか、いまだに謎です)
とにかく死ぬほどまずくて固かったので、飲み込める柔らかさになるまで、ひたすら口の中でモゴモゴして、唾液で溶かす自分。
「まだ噛んでるのか」という顔でたまにこっちを見てくるおじさん。
その視線を受けながら、「インドの食べ物を残したら失礼だ」と思って、日印友好のために、頑張って噛み続けました。
そして、多分5分後くらいにようやく飲み込みました。
「美味しかったか?」と聞かれ「イエス」と答えたら、「いい場所に連れて行く」と言われました。
噛みタバコは、こういう屋台で作っている
噛みタバコは、こういう屋台(のようなお店)で作られています。
(冒頭の写真をもう一度)
ここで、序盤で紹介したように葉っぱの上に色々載せて、くるむわけです。
ここで作業工程を見て初めて、これが噛みタバコだったということがわかりました。おじさんも一言教えてくれてもよかったと思うのですが…(笑)。
で、自分に追い打ちをかけたのは、このタバコのパッケージです。
画像のように、世にもグロテスクな、病的な口の写真が貼られています。
実はこれは誇張ではなく、このパーンを噛んでいる人たちはみんなこういう風になるようです。
プリーの男性の歯は、恐ろしく病んでいる
下のリンクは、岐阜大学大学院のサイトです。
下の方に、噛みタバコ常習者の口の画像が映っていますが、本当にこういう人がたくさんいます。
アジアに多発する口腔がん
2ヶ月滞在しながらプリーの人々の口を観察していましたが、中年男性の3割くらいは、この画像のような口です。
歯がことごとくピンクやオレンジになっていて、半分くらい溶けている感じです。
最初は見るだけで「うげ!」と思いましたが、もう慣れてしまいました(笑)。^^;
また、リンク先のタイトルにもあるように、パーンは口腔がんの原因にもなります。日本など先進国では、口腔がんはがん全体の数%程度しかないのですが、インドではがん全体の30%にもなるそうです。
つまり、インド人は日本人の約10倍、口腔がんにかかりやすいということですが、その原因がパーンだと言われています。実際、デリーなど都会の人々はもうパーンを嗜まなくなっており、徐々に田舎の文化となりつつあるようです。
1袋8円という安さのため、低所得層が喜んで嗜む
パーンは低所得層の人々ほど嗜んでいますが、その理由の一つに値段の安さがあります。
この1袋で5ルピー(約8円)という安さで、嗜好品としてはかなり安いものです。
参考までに他の嗜好品の物価と比較すると、
・噛みタバコ…5ルピー(8円)
・ビール600ml…100ルピー(170円)
・コーヒー(カフェでの1杯)…80ルピー(140円)
・オムライス…100ルピー(170円)
…という感じです。
プリーのような田舎では、オムライスなどの洋食は結構贅沢なので、嗜好品に入れていいと思います。
噛みタバコは小袋なので単純比較はできませんが、「小袋で買える」という点がミソだと思います。日本人が100円均一で、ついつい要らない物まで衝動買いしてしまうように、安くて簡単に買えると、人間はついつい買ってしまうものだからです。
そこにニコチンの中毒性が加わるので、この「8円」という安さは、かなりの曲者だと思います。低所得層を中毒にするため、わざとこうして小分けにして売っているのではないかと勘ぐってしまうくらいです。
もちろん真相はわかりませんが、このパーンが体に悪いのは確かで、インド全体では追放の方向に向かっている、というのも確かです。
インドの文化の一つではありますが、こちらで病んだ口の人たちを実際に見ると「こういう伝統はなくなった方がいい」と感じます。
少なくともインド政府もそう思っているから、あのようなパッケージにしているのでしょう。
以上、インドの噛みタバコ(パーン)の風習について解説しました。
インドに行ったら吸わないまでも、ぜひ観察してみてください。