ある家庭教師のトホホな体験談~本当にヘンな生徒ばかりを教えました
学生時代に家庭教師をしていましたが、なぜか受け持つ生徒が変わった子ばかり。
アルファベッットすらちゃんと書けない中学生、勉強しすぎて頭がおかしくなってしまった高校生、友達に裏切られて笑えなくなった高校生……。
そんな彼らとの珍道中的な家庭教師の体験談をつづります。
マジメなのに、トラがタイガーだと知らない中学生!?
私が家庭教師としてA君を初めて受持ったのは、彼が中学2年生のとき、両親からは「全然勉強ができない」と聞いていましたが、会ってみると礼儀もわきまえたちゃんとした生徒。
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「すぐに成績はアップするだろう」と思えました。ご両親によると「特に英語はまったくできない」ということ。
まずは簡単な単語力を確かめようと「トラを英語で書いてみて」と尋ねると、「わかりません」という答え。
スペルがわからないのかと確認すると、何と、トラが「タイガー」であることを知りません。
野球好きだという彼に「阪神タイガースのマスコットは何?」と尋ねると、「トラです」と答えます。
「トラはタイガーだからだよね」と教えると、「えっ! そうだったんですかっ! そんなこと、誰も知りませんよね?」と彼、「いや、誰でも知っているよ」と言うと、「先生、ウソばっかり」と信じてくれませんでした。
手にも脳みそがある?
A君の指導はとても大変でした。
なにせ、覚えたことをその場で忘れるほどの記憶力、どんなに詰め込んでも、なかなか効果が現れません。
1年間教えて、トラがタイガーだということは覚えてくれたものの、tigerというスペルは覚えてくれません。
ノートにtigerを100回書かせると、書いているうちにスペルが変わってしまいます。
おまけに、「今何してるの?」と尋ねると、「何しているんでしたっけ?」と聞かれる始末。
「頭で考えながら書きなよ」と言うと、「えっ!? 手が覚えるんじゃないんですか?」と真顔で聞かれました。
どうやら、手にも脳みそがあると思っていたようです。
このままでは、高校入試は絶望的、危機感を覚えたご両親が担任に相談したところ、家庭教師としてとても美味しい話の提案を受けます。
「成績表から1を無くしたら、某高校に推薦でいれてあげる」というものです。
平泳ぎまで教えるハメに!?
普通なら、楽勝な提案です。
しかしA君の場合、成績表に3以上はひとつもなく、大半が「1」で、「2」が1つ2つあるだけ、体育も音楽も美術も「1」です。「オール2」にするためには、これらの科目も「2」にしなければなりません。
それまでは、5教科を教えていましたが、以降は8教科すべて教えることになりました。
美術で写生をしたなら家に絵を持ち帰らせて筆の運び方や色使いを教え、音楽の教科書を見ながら音符の読み方を教え、歌を歌わせました。
休日にはプールに連れて行き、平泳ぎの手のかき方、キックの仕方まで教えます。試験の前日には、とにかく試験中までは覚えていられるようにと、朝まで暗記に付き合いました。
その結果、何とか「オール2」にすることができ、A君は高校に進学できました。
しかし、残念ながら、高校生になっても「tiger」は書けませんでした。
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勉強にドクターストップがかかった!?
B君は有名進学校に通う高校2年生。さぞやよくできるのだろうと思いましたら、全然できません。
話を聞くと、中学2年のときに精神科医から「勉強をしないように」と指導されたとのこと。
小学生のころには塾に加えて、自宅でも毎日4時間学習していたそうですが、「当時は面白くて仕方がなかった」のだそうです。
ところが、中学に入ってからだんだん集中できなくなり、中2になるころには、机に向かうと頭の中が真っ白になってしまうようになりました。
医者に診せると、勉強にストップがかかります。
以来3年間、自宅ではまったく学習をしないで過ごしてきたのです。
高2になり、医者から「じょじょに始めても良い」と言われたので、家庭教師を雇ってスタートすることにしたという経緯でした。
奇行を見ぬ振りしながらの学習でした
B君には、奇行癖がありました。いつも何かが気になるようで、勉強している最中に突然後ろを振り返ったり、立ち上がって部屋の整理を始めたり。
あらゆる物を「平行」もしくは「直角」に置かないと気がすまず、机やテーブルの上や本棚は定規で測ったかのようにきちんと物が置かれていました。
そんな奇行を見て見ぬ振りをしつつ、ゆっくりと勉強を進めて、最終的には中堅クラスの私立大学に合格させることができました。
その後、奇行が治ったのかどうかはわかりません。
人間不信に陥った高校生に教えたのは笑顔!?
C君は人を信じられなくなっていました。
中学時代の親友たちと「塾に行かずに頑張ろう!」と約束し、彼はそれを守って受験に臨みましたが、終わった後で聞いてみると、彼以外は全員塾に通っていたのです。
親友たちは皆第一志望の一流高校に合格し、彼だけが落ちました。以来、彼は人前で笑うことができなくなり、友達を作らずに高3まで過ごしていました。
ご両親から家庭教師の私への依頼は、「笑える子にしてください」ということ。
笑顔を作れないまま大学生にはしたくない、というのが望みでした。
これには面食らいましたが、毎回雑談をたっぷりしながら、大学生活のエンジョイの仕方などを教え、何とか1年で笑える子にすることができました。
彼は品の良い大学に入学しましたが、大学生になってからは友達もできたようです。
教科書どおりには教えられない中で、一所懸命やってみたら何とかなったという体験です。
実は、A君については高校生になってからも指導して大学に進学させました。
どうやって入れたのかは、ここでは省略しますが、一応、名の通った大学です。
残念ながら、大学生になっても、「tiger」は書けませんでしたけれど。
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