さだまさしの「精霊流し」で灯籠流しを思い浮かべるのは間違いです
1970年代前半に「精霊流し」という歌がヒットしました。さだまさしさんと吉田正美さんのフォークデュオ「グレープ」の曲です。現在でも夏場になるとテレビなどでも使われ人気があるようですが、多くのファンに勘違いもされています。
それはこの歌の「精霊流し」が川で行なう「灯籠流し」のことだと思われていることです。実際には、山車を引いて市中を練り歩くものなのですが……。
ヒットソングの中には、しばしば内容が誤解されているものがあります。イルカさんの「なごり雪」も、一般的には恋人との別れの歌だと思われていますが、そうではありません。こうした、作者の意図と聞き手の受け取り方が異なる部分について、少し掘り下げてみます。
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灯籠流しをイメージして曲を聴くと違和感がある?
一般に「灯籠流し」といえば、ナスなどのお供え物や灯籠(とうろう)を川に流す行事で、「精霊流し」とも呼ばれます。これをイメージしながら、さだまさしさんの曲を聴くと、ところどころで「おかしいな」と感じられる部分があるはずです。
まず、歌の冒頭部分に「去年のあなたの思い出が、テープレコーダーから流れてきます」とありますが、灯籠を流すのにわざわざ川にテープレコーダーを持参して音楽を流すでしょうか? 少し大げさな感じがします。
続いて、「そしてあなたの舟のあとをついてゆきましょう」となりますが、浴衣にゲタ履きの女性が川に流した舟の後をついていくのは大変ではないでしょうか? 夜ですから、数メートルは追いかけられても、何十メートル、何百メートルも追うのは難しいはずです。
曲の2番には「人ごみの中を縫うように 静かに時間が通り過ぎます」という部分がありますが、川での行事を歌った曲ならば、「人ごみの中」という表現を使うのはミスマッチではないでしょうか?
「灯籠流し」をイメージして聴いた人の中には、きっと、こんな疑問を持った人もいるはずです。
精霊流しは、長崎だけの独特の行事だった!?
この曲で描かれているのは、全国的にお盆の時期に行なわれる「灯籠流し」ではありません。さだまさしさんの出身地である長崎県の珍しい行事で、使われる舟はおもちゃのように小さなものではなく、「精霊船」とよばれる、リヤカーよりも大きく華美な山車(だし)のようなものです。
車輪がついており、灯りをともすためのバッテリーも積んでいて、夕方から夜遅くまで町中を引き歩き、最後は海辺の「流し場」に到着します。
山車だから音楽もかけられる!
昔はそのまま海に流したそうですが、環境問題などから現在は流すことはないそうです。町中に「精霊船」があふれ、道中は爆竹を鳴らすなど派手なものですが、死者を弔うものであり、お祭りではありません。
こういうものだからこそ、テープレコーダーを積んで音楽をかけたり、後ろをついて歩いたりすることができるわけです。街中を練り歩くので、「人ごみの中を縫うように」という歌詞もしっくりきます。
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「なごり雪」の歌詞はどこかおかしい
やはり70年代に、イルカさんが歌って大ヒットした「なごり雪」。作詞作曲は伊勢正三さん。元は「かぐや姫」が歌っていましたので、「かぐや姫の曲」ととらえている人も少なくないでしょう。
一般的には恋人との別れの歌として広まっていますが、歌詞の内容に違和感を覚えた人もいるはずです。
例えば、「時がゆけば幼い君も大人になると気づかないまま」にはどんな意味があるのか? 恋人に対して「幼い君」「大人になる」という上から目線は変でしょう。
仮に幼馴染みだったとしても、「成長して好きになる」なら理解できますが、成長に気がついたときに別れるのはおかしいです。
「今春が来て、君はきれいになった」というのも奇妙です。「きれいになったから好きになる」というなら分かりますが、別れる際に「きれいになった」とは普通は思いません。別れた恋人が、駅まで見送りに来るのも不思議です。
なごり雪の「君」は妹だった!?
伊勢正三さんが語ったところによれば、この歌で描かれているのは実家に戻る「妹」との別れです。一緒に東京に来ていた妹が、卒業か何かの理由で田舎に帰ろうとしているところを、兄が見送っています。
「妹もすっかり大人になったなぁ」という感慨が、「幼い君も大人になる」「きれいになった」という歌詞に表されているわけです。
別れに際して、その成長に気がついた兄が、寂しさと同時に嬉しさも感じている場面の複雑な心情がこめられています。そのため、別離の歌なのに曲調にはさわやかさがありますし、歌の最後は「きれいになった」とポジティブに締めくくられています。
伊勢正三さんが初めて作った曲です
なごり雪は、伊勢正三さんが始めて作詞作曲した歌です。それまでも作詞はしていましたが、作曲はしていませんでした。二番目に作ったのは「22歳の別れ」ですので、最初に作った2曲が彼にとって最大のメガヒットになったわけです。
精霊流しは爆竹が打ち鳴らされたりする賑やかなものなのに、一般の灯籠流しのような静かでしめやかなものをイメージされたことで、よりヒットしたかもしれません。
なごり雪も恋愛の歌だと勘違いされたことで、より売れたかもしれません。流行歌には、そんな「誤解によるヒット」がときどきあるのではないでしょうか。
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