生保のトップセールスマンは話をしない~質問だけでなぜ売れる?
イギリスのある経営学者が優秀なセールスマンのセールストークを分析して、顧客を説得する話法のコツを探ろうとしたところ、驚くべきことに気がついたそうです。それは、彼らがあまり話をしない、という共通点でした。
彼らのほとんどが、商品説明がうまいわけでもなく、話題の盛り上げ上手でもなく、たんに質問しているだけだったというのです。
つまり、売れるセールストークの秘密は、説得する技術ではなく質問する技術だったということです。私はかつて生命保険会社にいたことがありますが、保険の営業現場においても、たしかにトップクラスのセールスパーソンには「聞く力」がありました。
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一昨年、阿川佐和子さんの「聞く力」という本が大ベストセラーになって話題となりました。営業現場でもインタビュー能力はとても大切です。生保の優秀なセールスパーソンがどんな話法を使っているのか、導入部分の一端をご紹介します。
保険屋さんは嫌われている!?
保険のセールスというのは、一般の顧客からは好かれているとはいえません。どちらかといえば、煙たがられている存在でしょう。「しつこく売り込まれる」とか「入らされちゃう」と思われています。
それゆえ、セールスパーソンは顧客との最初のトークにとても気を使います。初対面の話の中で相手のガードを下げないと、そのあとの話がうまくいかないのです。
そこで、最初の切り口としては、びっくりさせるとか笑わせるなどのインパクトを与えるトークをします。
人は驚くとガードを下げるもの
映画などでときどき使われる場面に、道端でアイスクリームを食べていた人が、突然現れた巨大なUFOとか、スーパーマンを見て、思わずアイスを落としてしまったりするのがあります。普段なら絶対に落とすことはないのに、驚いたために注意力が損なわれるのです。
セールスの現場でも同じで、保険屋に対してガードを固めている顧客も、驚かされるとガードが甘くなります。そのため、セールスパーソンは最初に驚かす仕掛けをします。
笑うと相手に共感してしまう
人は何かを共有した相手には、親近感を持つ傾向にあります。「同じ釜の飯を食う」という言葉があります。「釜」を共有した相手に対しては仲間意識を持つものです。
初対面の人たちが集まって会議などをする際に、冒頭で簡単なゲームをする手法があります。これも「打ち解ける」ための方法です。「ゲーム」を共有することで、仲間意識を作って話し合いがスムーズに進むようにしています。
生保のセールスパーソンの場合、これを「笑い」で行うことが多いです。それが一番手っ取り早いからです。何かひとつのことを一緒に軽く笑うだけで相手との距離は縮まります。
驚かせ、笑わせる話法とは?
相手を驚かせるためには、予想と反対のことをすればよいと言われています。生保セールスの場合、初対面の相手に対して例えばこんな風に切り出します。「今日はまず、こんな保険がありますのでいかがでしょうか?」とパンフレットを出しながら真顔で言い、すかさず「と、いうような話ではありません」と続け自分から笑います。
「いきなりセールスか!」と相手は一瞬驚きひるみますが、すぐにそうではないと聞きホッとします。そして、セールスパーソンが笑ったのを見てつられて笑います。
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びっくりして心に隙ができたところで、軽いジョークだと気づいて笑うのです。人は相手が笑うと、「愛想笑い」をする傾向にあります。たいしたジョークではなくても、セールスが笑うと客は合わせて笑ってしまいます。
じつにバカバカしいトークに思われるかもしれませんが、上手なセールスがこれをやると、ときには爆笑になるのです。
優秀なセールスパーソンは、面白くない話でも自分が笑えば相手は笑うものだということを知ったうえでわざと笑います。見知らぬ人同士が「笑い」を共にしたことで、一瞬にして心理的な距離が縮まります。これで、ようやく普通に保険の話ができる環境が整うのです。
自分の発言は否定できない
「日本人の生命保険の加入率は90%もあるのですが、どうしてそんなに高いと思われますか?」と尋ねると、多くの人が「やはり入っておいた方が安心だからでしょう」と答えてくれます。「○○さんも、同じようにお考えなのですか?」とたずねると、「そりゃそうですよ」と答えてくれます。
最初から「保険には入っておいた方が安心ですよ」と押し付けたりはしません。相手の口から「安心です」といわせる方が、はるかに効果が高いからです。セールスパーソンのいったことは否定できますが、自分がいったことは否定できません。
質問をするのは、こちらが訴えたい言葉を相手の口からいわせるためです。これで、「保険には入った方が安心」という「事実」が確定します。
セールストークは「誘導尋問」のようなものです。こちらが伝えたいセリフを相手に「白状」させるのがコツです。
一般論で同意させ、各論にも同意させる
「多くの人が家族のために、と保険に入っておられますが、○○さんはいかがですか?」とたずねれば、「私も、家族のために入っています」と答えます。これで、「保険は家族のために」ということが確定します。
「あなたは」で伝えると同意してもらえないことも、「世間では」「多くの人が」という一般論で話を切り出せば同意を得やすくなります。一般論に同意してしまったあとに、自分はどうかときかれると、「私も同じです」と答えざるを得なくなるのです。よほどのひねくれ者でない限り、否定はしません。
このあとは、ほかの保険会社で加入している保険が家族のためになるものなのかどうかを、質問を繰り返すことで追求していくわけです。そして、「ためにならない」というところまで誘導して「では、うちの保険に入りましょうか」と背中を押して契約させます。
実際のトークはこれほど単純なものではありませんが、こんなイメージで進められています。顧客のガードを下げた後は、思い通りの答えを引き出すための質問をする。これで相手はいつの間にか、自分から「入りたい」ということになるのです。
By 水の
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