日本の農業が海外に勝てない本当の理由 ~耕地面積の狭さ・高齢化
日本の農業が弱体化していることは、もうはるか昔から言われていることです。
具体的にどのくらい弱体化しているのか、海外と比べてもともとの環境がどれだけ不利なのか、それらの数値を紹介します。
農業についての話題になった時、「日本の農業は弱いからね」というありきたりな一言ではなく、具体的な数値も混ぜて語れるよう、こうしたデータを押さえておきましょう。
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日本はもともと農業に適していない
自然の豊かな日本ですが、学校でも習った通り「国土の4分の3が山地」なので、農業に使える面積は限られています。
この耕地面積の狭さが、日本の農業が世界とくらべて弱い理由の一つです。農家1戸あたりの耕作面積を一覧にすると、日本と比較した場合、
・EU…9倍
・アメリカ…99倍
・オーストラリア…1862倍
となっています。
EUの9倍だけでも十分すごいですが、オーストラリアの「1862倍」まで来ると、もはや冗談のようにさえ感じられてしまいます。
これだけ大規模な生産をしている海外の農産物に、日本の農産物が価格で勝てるわけはありません。なので、日本の農作物は昔から高い関税によって保護され、かろうじて生き延びてきたのです。
コメの関税率は800%
正確にいうと、778%です(2013年時点)。これはつまり、海外のお米が1万円だったとしたら「7万7800円」になるということです。
「約8倍の値段になる」ということですね。このくらいの関税をかけないと守れないということは、単純に計算して、「日本のお米は海外の8倍高い」ということなのです。
もちろん、国産ということで安全性も保証されていますし、日本人の味覚には一番合っているので、海外より多少高くてもある程度買ってもらえるでしょう。
それにしても、さすがに8倍高いとなると、関税で守らない限り(海外のお米を「わざと」高くしない限り)、日本のお米を守れないのは当然なのです。
この関税もTPP加入のために引き下げるという発表が、2013年11月にされました。これから徐々に500%~600%まで引き下げていくということです。
「TPPに加入すると、海外のお米と勝負できなくなる」ということが言われていますが、加入してもまだ5倍~6倍の関税がかかっているんですね。
日本の農業の価格競争力は、もともとそれだけ低いのです。(地形の問題なので、当然仕方のないことではありますが)
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全体の6割が「65才以上」
65才以上といったら、世間では定年退職する年齢ですが、農家の人口の6割は、このような「65才以上」です。
「若者」といえる年齢である「35才未満」もわずか5%。全体の平均年齢は65.8才となっています(2010年時点)。
35才というとサラリーマンの世界でも、もう若手ではなく完全な中堅です。デスクワークよりも体力が必要な農業の方が若さが問われるはずですが、その農業でこれだけ若者が少ないということです。
「農業で一人前になるには10年かかる」という言葉があるので「農業は歳をとって経験を重ねないとできない」と言われるかも知れません。
しかし、一人前になるのに10年かかるのは、どの仕事でも同じです。(1年で一人前になれる仕事があるというなら、何をもって一人前というのかの、定義の問題だと思います)
経験も大事ですが、だからこそ長い時間経験を重ねていくには、若いうちからスタートした方がいいわけです。
その若者がこれだけ不足しているのですから、農業の後継者不足の問題の深刻さを、あらためて感じます。
参考記事:『ノギャル』の農業をするギャルたちは農業をどのように変えたのか?
農業改革事業の予算が、有効活用されていない
これについては、「そういう批判もある」ということで、見解が分かれるところです。
たとえば批判の意見としては、下のようなものがあります。↓
JB PRESS「農業に『経営』を」
リンク先にも書かれている通り、農水省の予算の4割は「農業構造改革事業」に使われています。
その費用がどのように使われているのかというと、かなりの部分が「道路、水路、橋」などに使われているということです。
もちろんこれらの工事も農業を支えるのに必要です。しかし、これはあくまで農業を「サポート」するものであり、直接農産物を増やすものではありません。
農地などでなくこのような建設工事にお金を回す理由を、批判派の方々は「地方の建設業者を潤すため」と指摘しています。
もちろん、これらの道路が農業生産に大きく貢献した土地もあるでしょうし、農水省や専門家の方々の間でも意見が割れている以上、ここで結論を出すことはできません。
ただ、「予算が本当に有効活用されているのか」という議論は、どんな分野でも常にしなくてはいけないことです。
(そのため、ここでもこのような批判派の方々の意見を紹介しています)
日本の農業はどう勝負すればいいのか
小規模農家を集約して、大規模な農業経営をするべき、という指摘はよく見られます。しかし、ただ規模で勝負するのなら、冒頭で書いた「1862倍」のオーストラリアにかなうわけがないのです。
となると、集約&大規模化をしつつも「付加価値の高い」農作物を生み出す必要があります。
農作物自体の品質を高める手もありますし、その農作物に何らかの加工をしてヒット商品を生み出し、素材のままではなく「食品」として付加価値を高める、というのも一つの手でしょう。
すぐに結論が出せるほど簡単な問題ではないですが、農業とは直接関係のない我々も、日本人として意識しておくべきことでしょう。
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