不妊治療で夫婦ケンカが多発~他人には分からない苦しみや悩みの数々
今や日本の国民病と言っても過言ではない「不妊症」、世間での認知度も高まりつつありますが、実際に治療に励んでいる人々は、他人には分からないさまざまな苦しみや悩みを抱えています。
金銭的な苦労はもちろんのこと、不妊うつなどメンタル面での問題、さらに不妊による夫婦ゲンカや離婚など、事態は深刻です。
不妊を取り巻く問題1-経済的負担
不妊治療には、基本的に健康保険が適用されません。そのため治療費は原則、全額自己負担となり、夫婦によっては「お金がないからあきらめざるを得ない」という状況もあり得ます。
現在のところ、保険が適用されるのは「タイミング療法」です。
基礎体温表やホルモン検査で排卵日を予測し、指示された日に性交渉を持つという、もっとも基礎的な治療法になります。
多くの病院では、排卵日を予測するためのエコー検査や血液検査を、月に1度に限り保険適用としています(例外もあります)。
これで自然妊娠できれば、もっともコストも低くありがたいのですが、タイミング法でうまくいかない場合は人工授精や体外受精など、より高度な治療が検討されることになります。
夫婦双方に大きな問題がない場合は、採取した精液を子宮に注入する人工授精からスタートします。
人工授精は意外と安く、1回につき1~3万ほどです。
ただし人工授精でも妊娠しなかった場合、体外受精や顕微授精が検討されます。
いずれも体外で精子と卵子を授精させてから、受精卵を体内に戻す方法ですが、1回につき30~50万ほどかかってしまいます。
現在、多くの自治体は不妊治療に助成金を出しています。
しかし1度の体外受精(顕微授精)につき、15万円ほどを上限額にしているところが多い上、年間の回数に制限を設けているところがほとんどです。
全国には、まれに費用を全額助成している自治体もありますが、ほとんどの市町村では半額以上が自己負担となるため、お財布と相談しながら治療するしかないのが現状です。
不妊を取り巻く問題2-「不妊うつ」などの精神症状
不妊治療を続ける女性たちの苦悩や孤独も、大きな問題となっています。
なかなか子どもが授からない苦しみは夫婦ともに同じですが、特に女性にはタイムリミットがある分、あせりや絶望感は男性より大きいといえるでしょう。
また不妊の検査や治療の中には、身体的・精神的に苦痛をともなうものもあります。
それに耐えてがんばっているのに、なかなか実を結ばないつらさは、経験したことのある人にしか分からないものです。
さらに不妊治療にはタイミングも重要ですので、治療に専念するために退職を余儀なくされる女性たちもいます。
それですぐに結果が出れば「良かった」と思えますが、なかなか授からないまま孤独な時が流れていくと、社会から切り離されたような感覚になって鬱々としてくる女性も少なくありません。
そのうち、道ばたで妊婦さんや子どもを見かけるだけでつらくなり、人生そのものに絶望してしまう女性もたくさんいます。
不妊治療には、こうした女性たちのメンタル面でのケアも必要とされているのです。
不妊を取り巻く問題3-夫婦ゲンカや離婚
ただでさえつらい不妊治療を乗り切るためには、何といっても夫婦の結束が必要です。
ところが長引く不妊治療をきっかけに、夫婦仲が逆に悪化してしまうケースも増えています。
まず考えられるのは、男性側にかかる強いプレッシャーです。
タイミング法であれそれ以外の方法であれ、男性には「射精」という行為が不可欠になります。
月に1度の排卵日にかかるプレッシャーや、精液を病院に持ち込まなくてはいけない精神的苦痛などで、「もうそこまでしなくていいよ」とあきらめたくなる男性も多いと思われます。
生物学的にも、子どもを持つことに強くこだわるのは女性のほうですから、そこで夫婦間に大きな亀裂が生じてしまいます。
その結果ケンカが絶えなくなり、ついには離婚に至ってしまう夫婦もいるほどです。
お互いに思いやりを持ち、相手をいたわりつつ、治療について冷静に話し合う姿勢が夫婦には求められます。
不妊治療は、まさに夫婦の絆を試される大きな試練でもあるのです。
不妊を取り巻く問題4-女性が安心して出産できない社会
その他、社会全体の問題としては「女性の晩婚化」や「キャリアと結婚(育児)の両立の難しさ」などが挙げられます。
そもそも今これだけ不妊に悩むカップルが急増している背景には、女性の社会進出があります。
学生のころから男性と同じく勉強に励み、就職戦線を勝ち抜いて働く女性たちに、今まで誰も「35歳を過ぎたら妊娠しにくくなるよ!」とは教えてくれませんでした。
特に都市部では、多くの女性が疑いなく20代を仕事に費やしており、立ち止まることが許されないのが現状です。
そして30歳を過ぎてから結婚し、いざ出産と思っても、なかなか妊娠しない…「こんなはずじゃなかったのに」と思う女性は山ほどいると思われます。
これを「自己責任」「人生設計の甘さ」だけで片づけるのは、いささか乱暴な話でしょう。
今は、個人がどんなふうに生きようが自由な時代です。しかし女性の体は昔から変わっておらず、卵子の老化を止めることはできません。
ですから今の女性たちは、みずから正しい知識を身につけ、なるべく後悔しない人生を自分で切り開くしかないようです。
ようやく最近になって、卵子の老化について叫ばれるようになってきました。
今後は女性たちが出産を見据えた人生を設計していくと同時に、社会も女性が結婚や出産をしながら働ける体制を作っていくことが求められています。
それなくして「少子化」を嘆くのはおかしな話だといえるでしょう。
By 叶恵美