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U2の90年代~世界的モンスターバンドが必要とした原点回帰の時間
ボノ、エッジ、アダム、ラリー、不動の4人で世界のトップに立ち続けるアイルランドのロック・バンド、U2。1980年にデビューした彼らがメガアーティストになっていく過程で重要だったのが90年代の活動。
それは時代の変化をめぐり彼らが原点回帰するために必要な期間でした。
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変わらなければならないとき!真面目なロック兄ちゃん的なイメージから脱却したい!
▲80年代U2のイメージを決定づけている写真といえばこれ、サントラ『魂の叫び』のジャケットに使われている画像
80年代、MTVなどのポップムーブメントが花開いた時代にも関わらず、硬派なイメージで世界のロック・シーンに登場したU2。ポストパンク、ニュー・ウェイヴ全盛期の中で社会問題を核とした音楽は異色でした。
1985年にライヴエイドに出演し存在感を全世界にアピールすると、87年発表の『ヨシュア・トゥリー』でグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞。一躍世界的に有名なバンドに躍り出ました。
その後、公開されたツアー・ドキュメンタリー映画『魂の叫び』も大ヒットし、映像のなかから彼らの誠実な音楽への姿勢が伝わってきました。
変わって行く世界とのU2流の付き合い方。作品に表れた変化とは?
待ち望まれた次作の制作に至るまで、世界では歴史的な出来事が次々と起こります。89年にベルリンの壁が崩壊し東西ドイツが統一されました。90年には湾岸戦争が勃発。
そんな中、ベルリンでのレコーディングを敢行した91年発表の新作『アクトン・ベイビー』は、大きな驚きとともに世間に受け止められました。
『ヨシュア・トゥリー』でU2を知り、続く映画『魂の叫び』を観て、いたく感動した筆者は、『アクトン・ベイビー』を初めて手にした時の衝撃を忘れられません。
「いったいU2はどうなってしまったんだ!?」
もちろんいまでは大好きな作品です。U2の作品群の中でも最高にカッコイイアルバムだと思っています。ただ発売当初はあまりにもイメージとかけ離れた音とコラージュされ混沌としたジャケットにとまどうしかありませんでした。
フォーク、ブルースなどのルーツに根差したロック・サウンドから一転、打ち込みを駆使したダンス・ビートやセクシーな歌詞、これまでのイメージを一新したこの作品は多くのファンのあいだで物議を醸しました。
ZOO TVツアー~湾岸戦争をゲーム感覚の映像で映し出すメディアを皮肉った?
▲マクフィストに扮したボノ。こういう変身願望って誰にでもありますよね?(笑)
同時に「ZOO TVツアー」と題したワールド・ツアーはスタジアムにたくさんのモニター画面を設置してその名の通り、湾岸戦争を映し出すメディアを皮肉ったステージを披露。
ボーカルのボノは前半ではサングラス・革ジャン姿、後半ではU2悪魔メフィストテレスをパロったキャラクター、「マクフィスト」に扮して歌いました。
ボノがステージ上で各国の有名人に電話をするコーナーもあり、日本公演ではなぜか当時の横綱だった曙に電話をかけていました(笑)。
93年にはギターのジ・エッジのソロアルバムの予定から派生した『ZOOROPA』を発表。前作以上のアヴァンギャルドさでU2の持っていた“歌モノ”という観点を完全に破壊し再構築した作品といえるでしょう。
これまた当時は理解できなかったんですが「ナム」や「レモン」等、現在の音楽シーンでも充分通用するダンス・ポップがならんでいます。
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抑揚を抑えた淡々としたボーカル、いや“ボイス”を使った曲が多い中「ステイ(ファラウェイ、ソー・クロース!)」の情熱的なボノの歌声は以前と変わらぬ熱さを感じさせます。
97年にはこれまでのサイバーポップ路線をよりダイナミックにしたようなアルバム『ポップ』をリリース。
その名もズバリのダンスナンバー「ディスコテック」から始まり「ドゥ・ユー・フィール・ラヴド」「モーフォ」と続く一連の楽曲には、80年代のどこか田舎臭いロック兄ちゃんの面影は微塵もありません。
憂いを帯びたフォーキーな曲「ステアリング・アット・ザ・サン」に若干のなつかしさを感じる程度です。
巨大化した「ポップマート・ツアー」でサイバーポップ3部作時代は終了!
▲もはやアミューズメントパークと化した感の「ポップマート・ツアー」の巨大セット
発売後の「ポップマート・ツアー」はより規模を拡大しておこなわれました。巨大スクリーンとステージ脇に設置されたミラーボール式のレモンのオブジェなど、実に約180億円もの費用を投入したというもはや国家プロジェクト並みのメガツアーと化しました。
98年には日本でも東京ドームと大阪ドームでそれぞれ1回ずつ開催されています。
「ポップマート・ツアー」は各人の衣装もド派手。ボノはマッチョなイラストが描かれたボディスーツに身を包み、エッジはサングラスにカーボーイハットでキメてます。アダムに至っては妙な形の黄色いビザール・ベースに工事現場のようなツナギにマスク姿です。
いま観るとどこかビースティ・ボーイズのようなヒップさも感じさせます。ちなみにドラムのラリーはいつも通りの硬派なスタイルでした(笑)。
このように90年代に入りアルバム、ライヴともに表現は大胆に変化したU2ですが、ライヴでは当然過去のナンバーも演奏し、以前と変わらぬメッセージをより多くの人に投げかけています。
U2がモンスターバンドと化したことで、ボノが発する政治的な発言は以前にも増して世間に広まりミャンマーの民主化運動の指導者スーチー女史の解放にも一役買っていたともいえます。
時代とともに自らが変化することで新たな表現を獲得し、原点に戻ったU2
▲一度のメンバーチェンジもなく続けてきた4人の結束は固い
2000年に入って初のアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』ではブライアン・イーノとダニエル・ラノワを再びプロデューサーに迎え、シンプルかつみずみずしいポップ・アルバムを完成させたU2。
メロディアスでありながらシャープで若々しい楽曲達には、彼らが過ごした90年代という激しい季節を癒す包容力にあふれています。
熾烈な時代の移り変わりに身を委ねることなく、自らが変化することで新たな表現を獲得したU2がいまの時代に何を見せてくれるのか?
これからの活動が楽しみです。
文・岡本貴之
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