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レディオヘッドの金字塔「OK コンピューター」~3作目の呪縛からの解放

1997年、レディオヘッドはアルバム「OK コンピューター」をこの世に産み出します。前年の7月から1997年3月までかけて試行錯誤された音たちは、ついにイギリス本国で初登場1位を記録しました。

雑誌などを含めてメディアの評価も高く、第六のメンバーと言われるナイジェル・ゴッドリッチによるプロデュースは成功をおさめました。新しいレディオヘッドの誕生です。

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「OK コンピューター」

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▲「OK コンピューター」ライブ期のトム・ヨーク

1曲目「エアバッグ」から2曲目「パラノイド・アンドロイド」が終わるまでのおよそ11分間は至福です。初めて、このアルバムを聴いたときは、思わず、2曲目が終わったあと、もう1度、「エアバッグ」のギター・イントロに戻してしまいました。

いまだに、「エアバッグ」と「パラノイド・アンドロイド」は自分のなかでは1つの曲として認識されています。

「パラノイド・アンドロイド」の中盤からの流れは、もう、最高です。繰り返す7/8拍子にジョニー・グリーンウッドのギター・ソロ、再び静かな雰囲気に戻るとトム・ヨークとエド・オブライエンのコーラスが厚みを加えていきます。そして、最後にワーミーを駆使したジョニー・グリーンウッドのギター。

何度、聴いても、よだれが出ます。

デビュー作と2作目は…

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▲「OK コンピューター」ツアー 疲労が蓄積した、トム・ヨークとジョニー・グリーンウッド

村上龍は、長編2作目「海の向こうで戦争が始まる」のあとがきや、村上春樹との対談本「ウォーク・ドント・ラン」で、このようなことを語っています。

ビート・ジェネレーションの代表格として日本でも人気の高い作家リチャード・ブローティガンにこんなことを言われたと。要約するとこんな感じです。

2作目はデビュー作のテクニックと想像性で書くことができる…大切なのは3作目だよ…「自分」ってものの器が空っぽになったところから戦いが始まるんだ…3作目は「自分」に正直に書け…失敗してもいいからね…これからも飛び続けるために。

小説も音楽も、表現という点では共通点があると思っています。3作目が、アーティストの方向性を位置づける、という意味でしょうか。それとも、2つぐらいまでは大丈夫だけど、3作目に本当の「自分」が必要になる、という意味でしょうか。

その後、村上龍は3作目で「コインロッカー・ベイビーズ」という代表作を書き上げました。レディオヘッドは「OK コンピューター」によって飛びました。別の頂上を目指して、飛び出していったのです。

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3作目の呪縛

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▲ダウンしているレディオヘッドのメンバーたち

「モノ」を創造することは「苦」です。それを楽しいと思っている人は本物の創造をしていないか、「苦」を受け入れることのできる変人のどちらかだと思っています。「モノ」を創るかぎり、産みの苦しみからは逃げられないのです。

3作目の呪縛に囚われたバンドをいくつかあげてみます。

ザ・ストーン・ローゼズ。
1989年「ストーン・ローゼズ」発表。マッドチェスターの中心的存在として活躍します。迷走しまくった1994年「セカンド・カミング」はデビューアルバムからの変わり方に期待を外したのか酷評。そして、1996年に解散。

クーラ・シェイカー。
1996年「K」でデビュー。ブリット・アウォーズ新人賞を受賞。ディープ・パープルのカバーでも有名な「ハッシュ」をシングル化し、イギリスで最高2位を獲得します。1999年「ペザンツ、ピッグス&アストロノーツ」を発表し、そのまま実質3年で解散。

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。
それまでシングルやEPだけを出していたが、1988年に「イズント・エニシング」を発表。1991年にはシューゲイザーの代表作と呼ばれる「ラヴレス」。2年以上の歳月をレコーディングに費やした2枚目のアルバム後、休止状態に。

探せば、他にも多くのバンドがいるでしょう。2枚目で停止してしまった理由は、そのバンドによってさまざまです。ただ、いつかどこかで創造の湖にあった水がなくなり、湖底が見えてくるのは、確かなのです。

不思議なことに上に書いた3バンドは再結成や再始動しました。クーラ・シェイカーはともかくとして、誰が、ザ・ストーン・ローゼズの再結成ライブや、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの新譜を想像できたでしょう。

「OK コンピューター」…そして、ツアーのドキュメンタリー「ミーティング・ピープル・イズ・イージー」

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▲マッキントッシュのカラークラシック(レディオヘッドのメンバー全員がマックユーザー)

「OK コンピューター」収録の「フィッター・ハッピアー」に入っている声はマッキントッシュのシンプルテキストで読ませたものです。テキスト・トゥ・スピーチ(Text-to-Speech)という機能ですが、矛盾しています。

なぜなら、「OK コンピューター」はOKしか喋らないコンピューターという意味だからです。完全にコンピューター社会を皮肉っています。

また、アルバムのタイトルはアルバム未収録で、最初に北米のみのEPの1曲として発表された「パロアルト(Palo Alto)」からとられたようです。

未来の自分へ「ぼくはOK きみの調子はどう?」…そんな歌詞です。パロアルトとはアメリカのカリフォルニア州の都市で、同じ名前の研究所もあります。

おそらく、アップル(Apple)にも影響を与えた研究所を示しているのだと思います。やはり、かなりの皮肉屋です。

「ミーティング・ピープル・イズ・イージー」という「OK コンピューター」ツアーのドキュメンタリー映像が発売されています。そこに映されているのは、レディオヘッドの苦悩です。売れてしまったあとの虚しさなのかもしれません。

バックステージでのトム・ヨークには真の笑顔はありません。皮肉っぽい作り笑いがあるだけです。

1997年、レディオヘッドはグラストンベリー・フェスティバル2日目のトリをつとめました。大規模なフェスで初のヘッドライナーでした。よく、レディオヘッドのベスト・ライブのひとつに挙げられます。

そう、レディオヘッドはメインアクトにふさわしい巨大なバンドとなっていったのです。いや、なってしまったのです。

by yosh.ash

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