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「欲望の翼」に見る撮影の「映像美」と「音楽香」との絶妙なるマッチング
良い映画は良い音楽とセットになっているものです。どうしてここでこんな音楽が使われているのだろう?音楽ファンの方なら、一度は考えてしまうのではないでしょうか?
ここでは「欲望の翼」という香港映画に使われた音楽をとりあげ、その魅力に迫ってみたいと思います。
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「欲望の翼」
「欲望の翼」は1990年に制作された香港映画です。監督はウォン・カーウァイ。簡単にまとめれば、1960年代の香港で4人の男女が織りなす群像劇。翌年、香港最大の映画賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞(レスリー・チャン)を受賞しました。
日本では、1991年、東京の映画祭に英語タイトルである「デイズ・オブ・ビーイング・ワイルド」で参加し、その翌年、「欲望の翼」として映画館で上映されました。原題の直訳でないものの、この邦題はなかなかのセンスだと思っています。
もしかすると、アートスクールの1stアルバム「レクイエム・フォー・イノセンス」に収録された曲名として、先にその名前を知ったという人もいるでしょう。ちなみに、このアルバムではレオス・カラックス監督の「ボーイ・ミーツ・ガール」とジャン=ジャック・ベネックス監督の「ディーバ」など、合わせて5曲が映画タイトルから付けられていました。
ウォン・カーウァイ監督とクリストファー・ドイル
ウォン・カーウァイ(左)とクリストファー・ドイル(右)
「欲望の翼」はウォン・カーウァイにとって2作目の監督作品です。1作目の「いますぐ抱きしめたい」は、いわゆる香港ノワール…代表的なものとしてはジョン・ウー監督の「男たちの挽歌」…に分類されるような「ふつう」の映画でした。
「ふつう」というのは、ありきたりの設定にありきたりの筋書きで、右から左に流れてしまうような、という意味です。
2作目でウォン・カーウァイは化けました。撮影監督であるクリストファー・ドイルが大きな影響を与えたことは間違いないです。ウォン・カーウァイはクリストファー・ドイルと組むことによって、自分のスタイル…モノローグを多用した時系列に沿わないストーリー、色彩感覚あふれたカメラワーク…を確立していくのです。
これ以降、2人はウォン・カーウァイ監督のほとんどの作品でコンビを組んでいます。例外は、初めての英語作品でノラ・ジョーンズが主役をつとめた「マイ・ブルーベリー・ナイツ」、2013年公開された「グランド・マスター」ぐらいです。
ザビア・クガートとロス・インディオス・タバハラス
ザビア・クガート
「欲望の翼」で使われている音楽はザビア・クガートとロス・インディオス・タバハラス。どちらも捨てがたい魅力があります。残念ながら、「欲望の翼」のサウンドトラック盤はありません。
ザビア・クガートは、特に1930年代から1940年代にかけてアメリカでラテン音楽の楽団のリーダーとして活躍しました。「ルンバの王様」と呼ばれています。ベスト盤などのジャケットでは優しげなおじいさんという感じなのですが、若い頃の写真はスペイン出身らしくオシャレな、まるでモノクロ映画時代の俳優のようです。
ロス・インディオス・タバハラスは1960年代に活躍したブラジルの兄弟、ギターデュオです。甘い音と甘いメロディが特徴のラテン系音楽でした。ショパンの幻想即興曲を兄が右手のパートを、弟が左手のパートで演奏したことでも知られています。
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映像美と音楽香
「欲望の翼」のワンシーン(フィリピンのジャングル)
映画は、タバコをくわえたヨディ(レスリー・チャン)がサッカースタジアムの売店で働くスー・リーチェン(マギー・チャン)に声をかけるシーンで始まります。レスリー・チャンがキザなセリフを吐きます(まあ、最初から最後までクールなセリフしかないのですが)。
「名前は?」「教えたくないわ」「本当は知ってる…」「誰から聞いたの?」そして耳元でささやきます「今夜、夢で会おう」。そこに絶妙なタイミングでロス・インディオス・タバハラスの「オールウェイズ・イン・マイ・ハート」が流れます。そして、画面はフィリピンのジャングル風景に変わります。
別のシーンでもこの曲は何度か使われています。
また、物語の終盤では、列車のなかで向かい合わせに座るヨディ(レスリー・チャン)とタイド(アンディ・ラウ)とのやり取りの後半でザビア・クガートの「ジャングル・ドラム」が流れます。
そして最後にはこの映画で重要な役目をする時計が映り、公衆電話のベルが鳴り、これまた絶妙なタイミングでザビア・クガートの「パーフィディア」が流れます。
なぜ、ここでラテン音楽を選んだのでしょうか?
映像に「美」があるように、音楽には「香」があると思っています。生まれ育った環境なのか、思春期に影響を受けたものなのか、それとも、生まれ持った類なのか、それは分かりません。ただ、良質な音楽には楽器のテクニックだけではない、ジャンルを超えた、独特の香りが、そこにあると感じるのです。
よく、映画は総合芸術だと言われます。決して、音楽は映像の添えものではありません。音楽による香りによって、映画の完成度に相乗効果を生み出すこともあります。逆にいえば、上質な映画には、上質な香りのする音楽が、必ずといっていいほど存在するのです。
「欲望の翼」も、その一例でしょう。甘く切ないラテン音楽と、けだるく蒸し暑い退廃的なセリフや映像のマッチングは最高です。奇跡のマッチングだと思います。
「欲望の翼」の続編
「欲望の翼」のワンシーン(ラストのトニー・レオン)
ラストシーンは謎です。話の流れとは関係なく、突然、トニー・レオンが出てきます。どうやら続編を考えいてたようですが実現せず、2000年の「花様年華 」においてトニー・レオンを主演にし、マギー・チャンが「欲望の翼」と同じ役名を引き継ぐ設定で落ち着くことになりました。
国内だけでなく、国外の映画祭などで数々の賞を受賞したので、評価としてはこちらのほうが上なのかもしれません。
個人的には、上も下もないです。「欲望の翼」には「欲望の翼」でしかない魅力に引き寄せられます。テネシーウィリアムズの戯曲「地獄のオルフェウス」から引用されたレスリー・チャンの独白が、このタイトルを象徴しているあたりも、琴線をくすぐられます。
脚のない鳥がいるそうだ
脚のない鳥はひたすら飛び続け、疲れたら風にのって眠る
脚のない鳥は生涯で一度だけ地上に降りる
それは脚のない鳥の最期のときだ
もしかすると、ウォン・カーウァイの作品は、その、ほとんどが「欲望の翼」の続編なのかもしれません。
ここまで…香港版のDVD(当時はこれしか売ってなかった)を流しながら、だらだらと文章を連ねてみました。ちなみに、アイフォンの着信音はザビア・クガートの「ジャングル・ドラム」で、目覚まし代わりのアラーム音は「パーフィディア」だったり…します。
正直、こんな音楽では起きられません(笑)。
ですが、ザビア・クガートはオススメです。夏にエアコンもかけず、じめじめした汗にまみれながら、BGM代わりにかけることをオススメいたします。「欲望の翼」気分になれます。ぜひ一度、お試しを。
by yosh.ash
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