引っ越し業者と客とのさまざまなトラブルをふせぐ目的で、1990年に国土交通省(旧運輸省)によって作られたのが、「標準引越運送約款」です。
「約款」(やっかん)という言葉に馴染みのない方もおられるかもしれませんが、、引っ越しにおける契約上の基本的なルールを定めたものです。
引越し業者の義務やしてはいけないことなどが、明確にルール決めされています。
また、業者だけではなく顧客側が負うべき責任なとに関しても、しっかりと明文化されています。
多くの引越し業者がこの標準引越運送約款に基づいて契約を交わしていますが、一部の業者は独自の約款を定め、国土交通省に届け出て個別に認可を得ているようです。
そのため、すべての会社が一律にこの規定通りに運用しているわけではありませんが、基本的な内容はほぼどこでも同じと考えていいでしょう。
引越し業者が見積書を提示する際には、約款も示しつつ契約内容について説明する必要があるのですが、実際に細かく説明するケースはあまりないようです。
また、顧客自身も約款にいちいち目を通す人は少ないと思います。
しかし、引越し業者と契約を済ますときには、せめて重要項目についてだけでも頭に入れておくべきでしょう。
引越し見積もりについて書かれた約款の第二章
標準引越運送約款の第二章には「見積もり」について書かれています。
引越しの見積書には、申込者の氏名や住所、業者の氏名や住所、荷物の受取日と引渡日、発送地と到達地、運賃等の合計金額と内訳および支払方法、解約手数料の額などなどを記載しなければならないとされています。
また、見積もり作成にあたっての「見積料」については請求してはならないとされています。
つまり、どこの引越し業者に見積もりを依頼しても、基本的には無料でなければならないことが約款に書かれているわけです。
ただし、あらかじめ申込者に通知して了解を得た場合には、下見のための費用を請求することが可能となっているようです。
たとえば、東京にいる人が、北海道の実家の荷物を東京に持ってきたい場合などに、どの程度の荷物があるのかを確認するために、東京の引越し業者が北海道まで下見に行くケースが考えられます。
業者にしてみれば下見のための交通費も馬鹿にならないので、そのような場合には、交通費を請求できるということになります。
また、標準引越運送約款によると、見積もりを提出する際に「内金」や「手付金」などを請求してはいけないということも規定されています。
キャンセルされることを予防するために「内金」や「手付金」を要求してくる引越し業者もときどきいるようですが、そういったことはしてはいけない決まりになっているわけです。
引越し業者が運送の引き受けを断れる場合を定めた約款第三章
お客に引越し業者を選ぶ権利があるのは当然ですが、実は業者にもお客を選ぶ権利があるわけです。
業者側から仕事を拒否できる場合について、標準引越運送約款の第三章に書かれています。
たとえば、運送をすることが「公の秩序」や「善良の風俗」に反する場合、あるいは天災などのやむを得ない事情がある場合には、拒絶することができます。
また、運ぶ品物によっても拒絶できるものがあるということも標準引越運送約款の第三章に明確に書かれています。
1)現金・有価証券・宝石貴金属・預金通帳・キャシュカード・印鑑など客が携帯できる貴重品
2)火薬などの危険物や不潔な品物など、他の品物に損害を及ぼす恐れのあるもの
3)動植物やピアノ、美術品、骨董品など、運送に際して特殊な管理をしなければならないもの
以上のようなものを依頼された場合には、引越し業者は仕事を断る権利があるわけです。
もちろん、実際に運んでくれるかどうかは業者の判断なので、そういったものを運ぶ必要がある場合には事前に確認をしておくといいでしょう。
荷物の梱包などについてかかれた第四章
引越しの荷造りなどについて、第四章に書かれています。
「荷送り人は、荷物の性質、重量、容積、運送距離等に応じて、運送に適するように荷造りをしなければなりません」とあります。
そして、荷造りが運送に適さない時には、業者はお客に対して正しく荷造りを要求できるとされています。
引っ越しにさいしては、あらかじめ荷造りをしておくことがお客の義務であるということが標準引越運送約款の第四章に定められているわけです。
ただし、最近の引越し業者はオプションで荷造りサービスなども行っていますので、そういったサービスを利用する場合には当然この第四章は適用されないことになります。
代金の支払いについて書かれた約款の第八章
標準引越運送約款の第八章には代金の支払いについて書かれています。
「荷物を受け取るときに…荷送人から運賃等を収受します」とあり、引っ越し作業の開始する時に代金を支払うのが原則となっています。
ただ「荷物を引き渡した後に荷受人等から収受することを認めることがあります」とも書かれており、作業の終了後に支払うことも可能となっています。
どういった支払い方法にするかは業者との話し合いで決めることなりますが、前払金の形で引越しの日よりも前に業者が支払いを要求することは許されていません。
解約手数料については、前日にキャンセル・延期した場合には、運賃の10%、当日にキャンセル・延期した場合には20%を請求することとなっています。
前々日より前にキャンセルや延期をした場合には、基本的にキャンセル料は発生しないことになります。
参照:引っ越しを中止や延期した場合のキャンセル料の相場はどれくらい?
この他には、事故にあったときの対応や賠償責任、免責等々についても標準引越運送約款に詳しく記載されています。
「標準引越運送約款」は多くの引っ越し業者が共通して使用している、引っ越しに関する取決めごとが書かれたものです。
あとになってトラブルに巻き込まれないように、重要な項目については、あらかじめ知っておくようにするといいでしょう。