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イタリアの町中にいまも残る馬が生活の一部だった時代のなごり

2014.05.28

イタリアの町中にいまも残る馬が生活の一部だった時代のなごり はコメントを受け付けていません

イタリアでは、馬車は古代ローマ時代から使われてきた乗り物です。現代ではほとんど使われなくなりましたが、馬と人がいっしょに生活していた時代の跡は、町のあちこちに残っています。

車が普及するようになると、イタリアの多くの町でも馬車はしだいに姿を消していきます。私の住んでいるフィレンツェも例外ではありません。

現代のフィレンツェでは、大型バスやタクシーが町中を毎日せわしなく走りまわっています。たしかに古都ですが、昔のままの町の様子を思い浮かべるのは、ここではもう難しいかもしれません。

でも町並みをゆっくり眺めていると、フィレンツェの人たちが動物を身近に使っていた暮らしの跡を見つけることができます。

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馬を使わなくなった私たちからすれば、どれも必要がなさすぎて、これらがあっても気づかないだけです。

今回は馬にスポットをあて、中世らしいポイントをまとめてみました。旅行でフィレンツェへ行くときに、これを知っていれば、ほんの少しタイムスリップした気分を楽しめるかもしれません。

旧市街地の中にも、中世のままの道が残っている場所があります

ガイドブックでは、フィレンツェのことを「ルネサンスの町」や「中世の町」というキャッチフレーズでよく紹介しています。

この町に、古い絵や彫刻がよく残っているのはたしかです。でも道路や建物まで、500年以上前の状態でそっくり残っているわけではありません。

19世紀後半に、フィレンツェでは大規模な都市開発が行われています。馬と人さえ通れればよかった中世の薄暗く狭い道は、大きく幅を広げられました。今の町の基本的な構造ができたのは、このころのことです。


▼フィレンツェ シニョーリア広場の様子

私たちがタクシーで市街地を走ることができるのは、まさにこの時期行われた都市整備のおかげでしょう。19世紀に、フィレンツェは中世を捨てて、現代的な都市に大きく変わったのです。

とはいえ、せっかくイタリアへ来たのなら、中世のノスタルジーも少しは感じてみたいものです。

中世そのままの道を見たい人は、ボルゴ・サンティッシマ・アポストリ通りかテルメ通りへ行ってみましょう。ここは旧市街地の真ん中にありながら、19世紀の都市開発を逃れた通りです。

石畳で舗装された道▲石畳で舗装された道が、ゆるくカーブしています。見通しは悪くても、カーブミラーなどもありません。道幅も舗装も、馬車が走りやすいように作られています。

この通りの道幅は約3m50cmですが、道の両側には歩道があります。歩道と歩道の間は、車体が収まる幅です。中世に使われていた馬車の車輪の幅は、最大でも2m50cmだったことになります。

案外狭いです。ラテン系の人は小柄なので、乗り物も小さめだったようですね。今使われている観光馬車だと、車輪幅はぎりぎりかもしれません。

建物の扉の前には、馬車の車輪の激突を防ぐための石が残っています

フィレンツェでルネサンス期の様子をよく伝えているのは、道よりもむしろ建物の外観でしょう。とくに大きな建築物では、立派な門はかつてのままに残されていることもあります。

大きな門の前に立ったら、石や鉄でできた40cmくらいの障害物が、扉の前にないかたしかめてみてください。

扉の前の石造の障害物▲こちらの門では、左右の扉の前に、上部を切り落とした円錐のような形をした石造の障害物が残っています。

馬車の車輪よけ▲こちらは、卵のような形ですね。

私たちからすれば、これはなんの役にたつのかまったくわかりませんが、実はこの石、馬車の車輪よけなのです。

イタリアの大きな建物は、馬車が門をくぐって内部へ直接入れるように作ってあります。門の先はたいてい広い中庭です。その建物に住んでいる人や、お客さんなどは、馬車のまま中庭まで入ってから降車し、車はそのまま庭に停めておきました。

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しかしここで問題になるのが御者の腕前です。動物は適当にしか前進しません。曳かれるままに車体を進ませると、車体の車輪が扉にぶつかり、扉も車も壊す危険がありました。

進入の角度が悪ければ、車輪がこの障害物にあたって止まります。

この石は、御者が扉のところで事故をおこすのを防ぐ役目を果たしていたのです。

あちこちの建物の壁にオーナメント?いいえこれは、馬をつないでおくためのリングです

古い建物の壁には、金属製のリングがあちこちに取り付けられています。

馬をつなぐ金属製のリング▲古い石壁にしっくりと溶け込んで、おしゃれな飾りのようです。今ではただの飾りにしか見えませんが、この丈夫な輪は立派な実用品でした。これは、昔、馬をつないでおくときに使われていた輪です。

▲リング型が基本ですが、こんな形のものもありました。

▲ごく普通の住宅用アパートなら、入り口の真横にこのリングがついていることが多いようです。

来客用に複数の輪がならんでいる▲重要な建造物では、このリングが壁面にいくつも並んでいます。中世から、来客の多い家だったのでしょうね。

馬が暴走したりしないように、車を離れるときに、御者は口輪とこのリングを紐でしっかりと結びつけました。地上から1m50cmくらいの位置に、この輪がついていることが多いです。

馬車用には、背が低めで頑丈な馬種が好まれたのではないでしょうか。今、観光用で使われている馬をみても、サラブレッドほど大きくはありません。口輪から伸びる紐をくくりつつけるには、これ位の高さがちょうどよかったのでしょう。

こういう見どころがわかると、イタリアの町の散策にも一味違った楽しみがでてきます。

問題といえば、車輪よけの障害物にせよ、外壁のリングにせよ、今は何の役にも立っていないことでしょうか。今ここで実際に住んでいると、あのリングの位置がもう少し低ければ、自転車をチェーンでつなぐときに使えて便利なのに…と思わずにいられません。

By 坂上

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