幻覚は誰にでも見える可能性があります~病気?それとも霊能力?
見えるはずのないものが見える「幻覚」、特定の病気によって引き起こされるものもありますが、私たちの脳には未解明の部分も多いため、実は誰にでも幻覚が見える可能性があるともいわれています。
意外と不確かな、私たちの視覚について考えてみましょう。
統合失調症で見える幻覚とは?
幻覚が見える病気として有名なものに「統合失調症」があります。
どちらかというと「幻聴」や「妄想」が多く、特に「みんなが自分を非難している」「誰かが物陰から見ている」といった主張が見られます。
統合失調症は、簡単に言うなら「脳の情報処理能力がうまく働いていない状態」です。
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私たちは常にさまざまな物や音、刺激などの情報に囲まれて生きていますが、そのうち自分にとって重要なものだけを無意識のうちに選び取っています。
しかし統合失調症の患者さんでは、このフィルタリングがうまくいかないことで、必要のない情報まで脳に取り込んでしまっていると考えられるのです。
たとえば誰かが自分のほうを見ていても、私たちは「気のせいか」と片づけます。
しかし統合失調症ではうまく情報を処理できないために「私の悪口を言っている」「監視している」というふうに思い込んでしまうのです。
幻覚も同じで、たとえばタンスの引き出しが開いているのを見た時、私たちは「閉め忘れたんだな」と思うところを、脳の情報処理がうまくいかないと「誰かが引き出しの中に入っている!」と考えてしまいます。
ですから統合失調症の場合、「妖精が見えた」というような視覚的な幻覚というよりは、思い込みから来る幻視が多い傾向にあります。
参考記事:統合失調症でもっとも多い症状である幻聴と幻覚の分類及び特徴
認知症で見えるリアルな幻覚とは?
認知症の中でも、特に幻覚を見やすいものに「レビー小体型認知症」があります。
おもに50代から好発しますが、もっと若い世代での発症もあります。
神経細胞の中に「レビー小体」という異常な構造物が生じることによって起こる病気で、パーキンソン病の仲間と考えられています。
アルツハイマー型認知症と比べると幻覚を訴える率が高く、しかも「そこに○○が座っている」というようなリアルな幻覚が多いのも特徴です。
特に「ネズミがいる」「知らない人が部屋に入ってくる」など、小動物や人に関するものが多く見られます。あまりに生々しく描写するため、近くにいる人はびっくりします。
これらは脳の異常によって起こっている幻覚であり、本人には「見えている」ことに疑いの余地はありません。ですから強く否定したりするのは良くないとされています。
脳のおせっかい?シャルル・ボネ症候群とは
おもに視覚に障害がある高齢者で、精神的にはいたって健常な人に見られる病気が「シャルル・ボネ症候群」です。
65歳以上で、片目もしくは両目の視力に問題がある人に多く発症します。
色つきの非常に複雑な図柄や、人物、動物、植物などの幻覚が見えますが、統合失調症のように「危害を加えられる」といった感覚はありません。
もともと私たちの目はそれほど確かなものではなく、見えないはずのものを脳が補ってくれています。
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二次元の絵が立体的に見えるのも、脳による「補完」のおかげです。
シャルル・ボネ症候群は、もともと視覚障害のある患者さんに多いことから、失われた視野を脳が「補完しすぎている」ことが原因ではないかと考えられています。
ちなみに視力障害のあった霊能力者、宜保愛子さんがこの病気だったのではないかという説が流れていますが、真相は分かっていません。
霊能力者は幻覚を見ているのか?
上記のほかにも、単なる疲れや見間違い、また麻薬などの作用によっても幻覚は見えることがあります。
健康な人であっても、「見えない部分を補う」という脳の働きによって、実は存在しないものを見る可能性は十分にあるのです。
一方、見えないものが見える健常者に「霊能力者」がいます。
遠く離れた場所で起こっている出来事や、今は亡き人々の姿を見ることができるとされる彼らは一体何を見ているのでしょうか?
そもそも「嘘をついている」という可能性を排除するなら、まず幻覚が疑われますが、それを調べるためには「大勢の霊能力者を集めて、同じものが見えるかどうかをテストする」ことが理想的のように思われます。
幻覚であるならばそれぞれ異なるものが見えるはずですから、1つの目安になります。
しかしこういった実験が「科学的に」おこなわれる機会は少なく、またどの程度の描写で「同じ」とするかも難しいところのようです。
アメリカには「ランディのサイキックチャレンジ」という面白いテレビ番組があり、このような実験がおこなわれています。
奇術師であり懐疑論者でもあるジェイムズ・ランディ氏が、霊能力者・超能力者と称する人に公開実験をやってもらうという内容です。
ランディが本物と認めれば、なんと100万ドル(約1億円)の賞金がもらえます。
これまで国内外からさまざまなゲストが出演しましたが、賞金を手にした人は1人も出ていません。
最初はうまくいったかのように見えても、次にランディが「こういう条件でもう1度やってほしい」と言うと、多くの人が失敗してしまうのです。
まさにトリックを見破る奇術師ならではの企画です。
ちなみに日本を代表する霊能力者、江原啓之氏によれば、霊視とは目ではなく「大脳のスクリーンで映像を見るようなもの」だといいます。
たとえば私たちも、目の前にいない人や昔なつかしい場所などを頭の中で「思い描く」ことができますが、霊視で見る絵はまさにそのような実体のないもののようです。
しかし本人にしてみれば、確実に描写できるものだともいえます。
脳科学者の茂木健一郎氏は、この現象を脳の「クオリア」に関連付けています。
クオリアとはいわば「感覚」のことであり、今の科学では究明できない脳の未解明分野という扱いです。
実際、脳にはまだまだ分かっていないことが多いため「霊視をすべてないことにする」という姿勢はむしろ非科学的なのかもしれません。
「そういうこともあるかもしれない」というのが、茂木氏の基本姿勢のようです。
もしもランディのサイキックチャレンジで、1億円をゲットする霊能力者が登場すれば、その人は一生、被験者となってさまざまな実験に参加するでしょう。
「科学的に証明を」と言われますが、実際に証明されたらどんな展開になるのかを考えると、霊能力などはむしろ曖昧にしておいたほうが平和だといえそうです。
By 叶恵美
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