時はバブル。狂った経済観念の中で苦悩する多重債務者たちの物語
いまからほんの四半世紀ほど前の日本には、バブルという名の浮かれた時代がありました。
宵ごしの金は持たない、とばかりに散財する周囲に感化され、高給取りではない人たちの金銭感覚まで狂っていました。行きついた先は借金地獄です。
いまなら結構な貯金ができる給料でもバブルでは足りない
現在、大手企業を別にすれば若いサラリーマンの年収は400万どころか300万にさえ届くかどうかというのが実感です。
それでも、独身で派手さを控えた暮らしをしていれば住む場所にもよりますがお金に困ることはないでしょう。うまくすれば貯金もできます。
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バブルを知らない世代の人ならそんなことは当然ですね。バブル期の若者も、多くは慎ましい生活を送っていました。
しかし、社会全体の経済観念が浮ついた状況の中では制御不能になる人が多数でるのも仕方ないことかも。毎晩遊び歩いていれば給料では足りなくなるのも当たり前でしょうね。
借金に対する抵抗が薄れていった時期でもあった
当時は銀行系や流通系のクレジットカード会社のキャッシングが一般に浸透しだしていました。
また、消費者金融も前時代のサラ金地獄のイメージから脱却していた時期でもあり、世間的にも借金のハードルがわりと下がっていたのは事実です。
しかも、右肩上がりの年収を考えれば多少マイナスが多くても返済に困ることもないという安易な考えもあったでしょう。お金はまた入ってくるという感覚です。
参考記事:貯金0の私が半年で1千万円も儲けてしまえたバブルって?
簡単に借りられるので切迫感がないのが問題
都内に在住していたAさんもこのような考えによって借金を始めました。
足りないから借りているわけであり、返せるはずはないのですが…そのうちなんとかなると思っていたのでしょう。
実は、一流企業勤務だったAさんの与信額は大きく、不足すれば極度額を上げて、それで足りなければ他から借り入れる。
その作業は苦もなく可能だったのです。負債が400万くらいになるまでは精神的に追い詰められることもなかったといいます。
皮肉なことですが、与信額が低い仕事をしていれば、ここまで債務を抱えることもなかったかも知れません。
そして訪れる自転車操業の悪夢
やがてAさんにも金策に苦労する時期がやってきました。根が真面目?なAさんはとにかく大きく延滞しないように回しています。
当時の消費者金融は約定弁済日に入金がないと電話が1本きたそうです。おおむね2日以内に入金すれば何も変りなく使えたとのこと。
これが止められると借りては返しで漕いでいた自転車が転倒してしまいます。
生活内容も一気に質素なものに転換し粘りを見せていましたが、やがて利息分のねん出がぎりぎりという状態におちいります。いつかは払えなくなるのは明らかでした。
まだまだ延命策は尽きない~闇社会の存在
しかし、まだまだ終わりにはなりません。スポーツ新聞や夕刊紙の広告面には借り入れ可能の文字が躍っています。
Aさんはその中の1社に連絡をとりました。指定された書類を持って新宿にある雑居ビルを目指します。
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一般的な消費者金融をイメージしていたAさんは、看板すらでていない業者に一抹の不安を感じました。
しかし、背に腹は代えられないとばかりにその部屋に入ったそうです。
内部は普通のオフィス風ではあったものの、目の前の社員らしき男たちの雰囲気は見慣れたサラリーマンとは違ったといいます。
といっても、イカツイ風貌というのではなく、意識してサラリーマンを演じている臭さがあったと。
まずは借り入れ状況のチェックから始まり、健康保険証を提示します。ここで業者の顔色が変わったのをAさんは見逃しませんでした。
優良顧客に大喜びする紹介屋
当時の健康保険証は主に3色にわかれていました。
国民健康保険がピンク、政府管掌健康保険(現在の協会健保)がクリーム、そして大企業等が自前で作る健康保険組合の保険証が白でした。
白い健康保険証を見た業者は会社名を確認して「まだまだ大丈夫、借りられますよ。」といい、Aさんはホッと一安心。
しかし、次の瞬間おかしなことをいい始めます。自社では貸せないが駅前にある大手に話をつけて貸し出させると。
業者はAさんに大手業者支店前へ行って、「融資の相談をしたい」と電話を入れるように指示しました。その間に連絡を入れておくので心配はないといって。
これはおかしいと思いつつも引き返せないAさん
紹介してくれるならと喜んで駅前へ向かい公衆電話から支店にかけたAさん。
支店の担当者に「誰かにここを聞きましたか?」と質問されたが、業者からこれは合言葉なので「いいえ」と答えるようにといわれていたAさんはその通りに答えて支店へ。
支店では通常通りの申し込み手続きが行われ、窓口担当者が奥の支店長らしき人物のもとへ報告に行きます。
借り入れが多いので無理ではないかと主張する担当者と、他社の貸し出しが信用の証しだと融資を命じる上司のやりとりが聞こえてきます。
「なんか普通すぎる。本当に紹介なんかあったのか?」とAさんは感じたそうです。
結果的に紹介屋を利用してしまったAさん
真相は闇の中ですが、希望額を手にしたAさんは業者の事務所へ引き返し約束の紹介料を支払いました。
もし本当の闇の住人だった場合、支払わずに帰ったら身に危険が及ぶと判断したためです。
あとで考えれば、疑う余地のない紹介屋だったわけです。電話で担当者が誰かの指示かときいたのは、当時の紹介屋の手口を大手サイドも把握していたからです。
つまり、初めから大手へ行っておけば紹介料など払わずに融資が受けられただけの話でした。
結果として紹介屋を儲けさせ、自身はさらなる借金苦に陥ったAさんの苦悩はまだまだ続くのでした。
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